大家さんに注意してほしい立ち退きの話
2017.03.27.
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FROM | 連合会
弁護士の井筒です。今回は、日頃よく不動産の大家さん(貸主)からよく受ける相談をご紹介します。
現在、アパートを賃貸している人やこれから収益物件を購入することを検討している方はリスクの一つとして
参考にしてください。
相談内容としては以下のようなものが多くあります。
相談内容
現在、賃貸アパートを所有していますが、家賃を3ヶ月以上滞納されています。契約書には1ヶ月の滞納でも解除できるとあります。そこで、賃借人に対し、滞納家賃を払ってくれなければ、
すぐに退去してもらう旨の通知をしましたが、家賃を支払う気配が一向にありません。
すぐに賃借人を退去させることはできないのでしょうか?
このようなご相談に対し、以下のような回答をすることが多いです。
回答
賃借人は、家賃を当然に支払わなければなりません。
賃貸借契約上、家賃の支払い義務が賃借人にはあるからです(民法601条)。
家賃を支払えないということは、家賃を支払う義務を怠ったことになるので、法律上、「債務不履行」となります。
債務不履行の場合、賃貸人は、契約を解除し、賃借人に対して明け渡しを求めることができます。但し、判例上、賃貸借契約は継続的な契約であり、信頼関係を基礎としていますので、債務不
履行があれば直ちに契約解除が認められるわけではなく、信頼関係を破壊しない特段の事情が認められる場合には解除ができないとされています。
したがって、契約書上1ヶ月の滞納で解除できる旨の条項があったとしても、まず解除が認められるかどうかは判然としません。
それでは、仮に解除が認められるとして、すぐに退去してもらうことはできるのでしょうか?
答えはノーです。
家賃を滞納し、解除が認められるからといって、すぐに退去させることは賃借人が任意に応じなければできません。
問題になるのは、家賃も払ってもらえないし、かといって、部屋を出て行かないというような場合です。
このような場合、法律上、建物から出て行くように求めるためには、裁判所に対して建物明渡訴訟を提起して判決をもらう必要があります。
裁判所が、判決によって「建物を明け渡せ」と命じて、賃貸人は、賃借人を強制的に建物から出て行くように求める権利を得ることができるのです。
この判決に基づいて、強制執行が適法に行われれば、賃借人を、強制的に退去させることが可能になります。
このように、法律では、家賃を滞納し、解除が認められる場合であっても、賃貸人は、すぐに居住している賃借人を退去させることはできません。
もし、賃貸人や不動産管理会社が、家賃滞納を理由に裁判所の手続を通さずに、勝手に鍵を交換したり、荷物を持ち出したり撤去したりした場合は、どうなるでしょうか?
違法な自力救済として、民事上、損害賠償責任を負うだけでなく、場合によっては、刑事上、犯罪となって処罰されることもあります。
したがって、たとえ賃借人が、家賃を支払わなかったとしても、すぐに退去させることはできません。
経験上、賃借人が家賃滞納をしている場合、経済的に問題があることが多く、家賃をきちんと回収できるケースは少なく、場合によっては強制執行の費用も貸主が実質的に負担することにな
り、そうなると数十万円から数百万円の損失になることもありますので、大家さんやこれから収益物件を購入される方はこの点のリスクをよく想定したうえで、事業を展開する必要がありま
す。